原子力損害賠償の基礎知識

2011-09-14

2011年9月10日
弁護士 岡本卓大



Ⅰ 原子力損害賠償についての基本的な法律知識

1 原子力損害の賠償に関する法律(原賠法)とは?

原発事故等で原子力損害が生じた場合の賠償についての基本制度を定めている法律。
「被害者の保護」と「原子力事業の健全な発達」を目的としている(原賠法1条)。

2 原賠法の特徴

無過失責任の原則

原発事故による損害は,無過失責任(原賠法3条1項本文)
但し,「その損害が異常に巨大な天災地変又は社会的動乱によって生じたものであるときは,この限りでない。」という但し書きがある(原賠法3条1項但し書き)

→ 東日本大震災は,「異常に巨大な天災地変」と考えて,東電を免責させることは妥当でない。cf)枝野官房長官(当時)は,免責を否定する発言。

責任集中の原則

原子力損害については,原子力事業者以外の者は損害を賠償する義務が無い(原賠法4条1項)

→ 原発で使っていた機械を作ったメーカー等の責任(製造物責任)は問えない。

→ 原子力事業者(東電)だけが賠償義務を負う。

無限責任の原則

原子力事業者の責任は,賠償額の上限が決まった有限責任ではなく,無限責任。

→ 損害については,原則として「全額賠償」しなければならない。

※ 賠償額の制限をする法律改正をするという動きもある(原子力損害賠償支援機構法の付帯決議)。

賠償措置額を超えた場合の政府の援助

原子力損害の賠償額が賠償措置額を超えた場合には,国は,原子力事業者に対し,損害を賠償するために「必要な援助」をする。

→ 「援助」のための法律として,H23.8.3「原子力損害賠償支援機構法」が成立。

→ 「賠償支援」についての「国の責任」を明記。

※ 原子力事業者は,1事業所ごとに1200億円の「賠償措置額」が決められている。

3 原子力損害賠償紛争審査会とは?

原子力損害の賠償に関して紛争が生じた場合における「和解の仲介」や,当事者による自主的な解決のための「一般的な指針」を作るための機関。

文部科学省に置かれている。

原子力損害賠償紛争審査会による指針

賠償についての一般的なガイドライン。

→ 「指針」に書かれていることしか,損害賠償の対象として認められないわけではない。

→ H23.8.5に「中間指針」が出されている。

4 中間指針の考え方

損害の範囲

事故と「相当因果関係」のある損害。

→ 社会通念上当該事故から当該損害が生じるのが合理的かつ相当であると考えられるものが原子力損害に含まれる。

→ 中間指針等で対象とされなかったものも,「個別具体的な事情」に応じて,相当因果関係のある損害と認められることがあり得る。

損害の終期

「避難費用」「営業損害」「就労不能等に伴う損害」などの継続的に発生する損害については終期(いつまでの期間を損害として扱うか)が大きな問題。

→ 事態の進捗を踏まえて必要に応じて検討(現時点で結論を出せず。)。

地震・津波による損害との関係

原賠法により原子力事業者(東電)が負う責任の範囲は「原子力損害」(=原発事故による損害)。

→ 地震・津波による損害については賠償の対象とならない。
→ ただし,原発事故による損害か,地震・津波による損害かの区別が難しい場合もあるので,特定の損害が原子力損害にあたるかは合理的・柔軟に考えていく必要がある。

損害の算定

原則は,「個別の証明」による「実費賠償」

→ 損害項目によっては,合理的に算定した一定額の賠償を認めるなどの方法もあり得る。
なお,証拠収集が困難な場合には,必要かつ合理的な範囲で証明の程度を緩和したり,客観的な統計データ等による算定も考えられる。

→ ただし,「一定額」を超える現実の損害額が証明された場合には,必要かつ合理的な範囲で増額することがあり得る。

・ 賠償金の支払方法

迅速な救済が必要な被害者の現状。

→ 例えば,損害について賠償額の全額が最終的に確定する前でも,「継続して発生する損害について月毎に賠償額を特定して支払ったり,請求金額の一部の支払をしたりするなど」,東電には「合理的かつ柔軟な対応が求められる。」

中間指針で挙げられた損害の項目(主に避難関係について)

※ 政府による避難等の指示に係る損害

・ 検査費用(人・物 放射線に曝露していないか検査した費用,交通費含む。)

・ 避難費用(交通費・家財道具の移動費用,避難後の宿泊費等)

・ 一時立ち入り費用(一時立ち入りの実費・交通費等)

・ 帰宅費用(交通費,家財道具の移動費用等)

・ 生命,身体的損害(避難生活等が原因の傷害,疾病,死亡による逸失利益,治療費,薬代等。健康悪化防止のための増加費用,慰謝料等)

・ 精神的損害(最初の6ヶ月間は 避難所一人月額12万円,避難所以外一人月額10万円が目安。それ以後は,一人月額5万円が目安)

・ 営業損害(減収分と資産の廃棄・移動・除染費等の追加的費用)
(事故がなかった場合の収益-事故後の現状)-(事故がなかった場合の費用-事故後の現状)で計算。

・ 就労不能等に伴う損害(給与等の減収分と追加的費用)

・ 財物価値の喪失又は減少等(物の価値の喪失・減少分と廃棄費用・修理費用・除染費用等の追加的費用)

※ 対象は,避難区域,警戒区域,屋内退避区域,緊急時避難準備区域,計画的避難区域,特定避難勧奨地点,南相馬市が一時避難を要請した区域に住所等がある人

※ 対象地域外からの自主的な避難については中間指針には,明記されず。

→中間指針で対象とされなかったものも,「個別具体的な事情」に応じて,相当因果関係のある損害と認められることがあり得る。

その他の中間指針に明記された損害項目

・ 政府による航行危険区域及び飛行禁止区域の設定に係る損害

・ 政府等による農林水産物の出荷制限指示等に係る損害

・ その他の政府指示等に係る損害

・ いわゆる風評被害

・ いわゆる間接被害

・ 放射線被曝による損害

損害賠償を求める手続

1 賠償を求める手続の流れ

・ 被害の申告(被害者→東電)

・ 被害額の算出

・ 被害額の確認,協議(被害者⇔東電)

・ 合意,示談(被害者⇔東電)

・ 支払(東電→被害者)

※ 被害金額(賠償額)の確定方法

・ 東電との直接交渉

・ 原子力損害紛争解決センターへの申立

・ 訴訟(裁判所での裁判)

→ 話し合いでは解決できないときは,最終的には訴訟(裁判)で解決することになる。

交渉(話し合い)による解決の注意点

「清算条項」に注意

通常,和解(示談)では,お互いに争いを終わらせるために,「他に債権債務が存在しない。」という条項(清算条項)を入れることが一般的。

→清算条項があると,他に請求できる損害があったとしても,和解(示談)でそれを含めて解決したことになってしまい,受けるべき賠償が受けられなくなってしまう可能性がある。

2 原子力損害賠償紛争解決センター

東京(新橋)と福島(郡山)に設置。

原賠法や民法などの法律,原子力損害賠償紛争審査会の指針を元に,原子力損害賠償についての和解の仲介手続を行なう。

弁護士などの法律の専門家が仲介委員として,和解の仲介をする。

→ 法律の専門家である第三者が仲介する原子力損害賠償紛争解決センターであれば,東電の独自基準ではなく,法律に従った適切な賠償が行なわれることが期待できる。

→ それでも難しい事件については,民事訴訟(裁判)。

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